雪も氷も何するものぞ
                〜 砂漠の王と氷の后より

        *砂幻シュウ様 “蜻蛉”さんでご披露なさっておいでの、
         勘7・アラビアン妄想設定をお借りしました。
 


しっかとしていて揺るぎない大地の上でありながら、
方向を見失えば あっと言う間に生命の危機にさらされる。
交通手段や輸送に於いて、どんなに技術が進もうと、
所詮、人間なんぞ 水と磁石に振り回される か弱き存在であり。
そうと思えば、一種 大海原にも似たところ。
それが沙漠というところだと、

 「…と、ゴロさんが言うておりました。」

 「それはまた、海路から生還なされたお人らしい言ですね。」

羅針盤という方向への頼りが発明され、
造船の技術も進み、
人がその生涯の間に到達出来る最長距離も
じりじりと伸びつつあるとはいえ。
まだまだ地図の上へと描かれている土地は限られたもの。
航海術も造船の技術も進んじゃあいるが、
運営という点では…各国が無駄に激しく競い合っており。
船主の側も側で、王国からの庇護を受けたいがため、
周辺地域からじわじわ順を追って到達点を延ばしてゆけばいいものを、
徒に遠くを目指してばかりいる傾向が強いのが災いし。
冒険優先・新発見優先という、やや博奕っぽい航行を選ぶがゆえ、
目覚ましい発見や珍しいお土産もあろうが、
それと同じほどに遭難率も高いままであり。
せっかくの技術を有効には活かし切れてないらしく。

 「もちょっと融通の利く中小の商人たちは、
  きっちり元を取るべく、
  “商売優先”の航行をしちゃあいるのだそうですが。
  そっちはそっちで、
  荷を扱う人夫らの元締めとの関係とかしがらみとか、
  それなりのごたごたもあってのこと、
  やはりちゃっちゃとは行かぬものだとか。」

世界地図を広げて見るに、
遠くへの旅路ほど船で一気に進みゃあ早くはないかと思うところだが。
今ほどしっかとした地図もなけりゃあ、
国だって“列強”と呼ばれるほどもの大きなものが、
まだまだ育ってはない頃合いだと。
遠くへ行けば行くほど国境だって次から次へと頻繁に現れるので、
そこを通過するごとに審査もあれば、
条件づけの関係で、乗り組員の総入れ替えだって必要になったりしで。
冗談抜きに、玄奘三蔵様の天竺への旅も、
海路を使っておれば早かろうと思いきや、
同じ時代の、途中に現れる川を下った商船の記録で
大した距離ではないはずが数カ月もかかったとあり、
陸路の方がまだまだ早かったりしたのだそうな。

 「ヘイさんとしては、
  異国の珍しいものを、
  もっと色々見てみたいと思うところでしょうか?」

広さでも人口でも文化水準でも、
現今随一を誇る沙漠の王国を統べるは、
カンベエという覇王様。
ご自身も戦場に立つを厭わぬ、勇猛果敢な闘剣士であるのみならず、
広大な砂漠でも入り組んだ城下でも、
なかなか心を開かぬ頑なな姫でさえ、
あの手この手で難無く攻略してしまう戦略家であり。
単なる知恵者であるのみならず、それは懐ろ深き人柄から、
他国・他派閥にまで理解者や支援者を持つほどの人格人望を誇ってもおいで。

 「理解と言っても、
  いまだに反発を抱いている人も少なくはないそうですが。」

征服された側にすりゃあ、
属領制を執行されての殲滅は免れられたという事実さえもが屈辱の極み、
恩情をかけられたなぞとは片腹痛いという形で向かっ腹も立とう。
そこを看過は出来ませぬとシチロージが付け足したが、

 「それにしたって、
  我が好敵手として認めるに悋さかではなしという方向でですけれど。」

 「……違いない。」

よって、
そんな彼がその手で広げたと言っても過言ではない覇権の及ぶ東西南北、
今の時代の輸送術の許す限りという、それはそれは遠くからでも、
珍しいものや先進の技術を、
たいそう手早くその手元へ呼び寄せることが可能であり。
瑪瑙の宮を預かる第二妃、
西の国から招かれた才気あふるる姫には、
珍しい機巧やら遠国の書物やら、
先んじて眸を通し、王に報告するというお役目を授けられ。
1日が24時間では足りぬという嬉しい悲鳴を上げるほど、
それは生き生きとこなしておいでだとか。

 「そうですね。
  羅針盤も、書物の印刷に弾みをつけよう紙を製造する技術も、
  東亜からやって来たものですし。」

まだまだ沢山の珍しいものがあるのでしょうねと、
常からもお話ししておりますよと。
薄い更紗のヒジャヴを透かし、童顔をほころばせて見せる彼女であり。

 「東亜との盟約は、
  向こうからも望まれて結んだものだと聞いておりますが。」

真鍮のカップにそそがれたは、山羊の乳で茶葉を煮出した温かい飲み物で。
文字通りの常夏、通年で温かい土地じゃああれど、
それでもそれなり、今の時期は風も強まるものだから。
仲のいい妃らがお顔を揃えるお茶の時間にも、
滋養があって温かいものが好まれる頃合いでもあり。

 「キュウゾウ殿の故国の炯の国や、
  シチロージ様の故国の北領の場合、
  双方ともに最も難攻不落だったのが姫様だったというに。
  それでも陥落なさしむるとは…。」

それこそ、覇王ご本人様の人柄というか、
人性の奥深さあってのことでしょうよねと。
褒めているにしては、少々微妙に含むものありな語調で言及なさり。

 「あれま、そのように なぶられますか。」

ほほと流せる余裕の翡翠の宮様はともかく、

 「〜〜〜〜。///////」

これがちょっと以前であれば、
何でそうまでと呆れるくらいにムキになっての、
いっそ怒ったかもしれない琥珀の宮様。
それが今では、
真っ赤になったの誤魔化したくてか、
熱いものは苦手なくせに、温かなお茶を口へと運びかけ、

 「…っ☆」
 「ああ、これ。そのような無茶をなさってはなりませぬ。」

まだまだ ちりりと熱かったのだろう、
驚いての素早く引き離したとはいえ、
多少なりとも舌を痛めてしまわれる判りやすさよ。

 冷たいお水をお持ちして。
 ほれ、舌をお見せなさい…と。

相変わらずの睦まじさにあって、
場がほこりと温かくほころぶ。
才も品格もそれぞれに秀でておいでの
それは麗しい三人の妃たちが、
互いに慈しみ合う様の華やぎに、
お仕えする侍女らまでもが、
心穏やかな笑みを頬に口元にと含みしめておいで。
我こそはと身を乗り出してまで、覇王様からの寵を独占しようとし、
相手を陥れてでもと醜く諍うという様、
此処ではまず見られぬのもまた、
我らが覇王様のご意向の素晴らしさよと。
これもまた あの壮年様のいいところへ計上されてしまうのは、

 “……何とはなく癪でもありますわね。”

確かに あのお人に根負けしたのは事実で、
それをもって 降嫁したのじゃああったれど。
世間で言われているような、
攻め入って来たおりの 派兵の勇壮さだの運用の妙だの、
戦略家としての巧みな機知の冴えだのや。
はたまた、カンベエ本人の精悍な見栄えの頼もしさや、
ご自身も剣を振るわれたその雄々しき男映えだの、
そんなところだけへと屈服した訳ではない。
例えば知識の深さや懐ろの広さ、
稚気であったり優しさであったりしたのへ、
世に言われていた頑ななところをくすぐられたのであり、
ましてや“陥落”だの“屈服”だのした覚えは
これっぽちもないというに、と。
そこのところだけは、
氷のように冴えて沈着冷静、
知彗の尋も奥深いとの肩書をお持ちの翡翠の宮様だとて、
いまだに…大人げないかも知れぬが反駁したくもなる点だったし。

 「〜〜〜〜。//////」

その傾倒ぶりを揶揄されたのへ、
ついつい幼子のような素振りで誤魔化しかけたキュウゾウ妃とて。
輿入れしてからこちらのずっとずっと、
“心までは許さぬ”との矜持を通していたその頑なさは、
シチロージが時折こそりこそりと助言を呈して暖めることで
やっとのこと緩んだという節も大かりしだろうに。
最初から骨抜きにされての落とされたなんて言われては、
ついつい癇に障るものも多少はあろう。

 “…まあ、そういう意味合いからも
  同じ立場ではあるということでしょうかしらね。”

軽く炎症をこうむった舌を冷やすのにと、
覚ました清水を口へ含んでいた紅蓮のお妃。
くせのある毛先なものだから、ふわふわとした軽やかさを見せる金の髪を、
だが今は、びっくりしたのと恥ずかしいという心情を映してか、
細い肩がそうなったのと同じほど、やや すぼめてしまっておいで。

 「あれあれ、少し寒うなりましたかしら。」

風邪を引かれては…と、シチロージがそのような声をかければ。
彼女の傍らへ ささとなめらかな所作にてかしずいた侍女のシノが、
片やは羊毛の織物だろうヒジャヴを、
そしてもう片やは…少々変わった布を畳んだものを、
どちらでもお選びくださいと運んで来ておいで。

 「そちらは、もしかして北領の国の産のものですか?」

 「ええ。」

そういえば、シチロージが生まれ育った土地は、
どうかすると黒海の向こうで欧州と地続きとなる辺り。
年間の半分近くを雪や氷に閉ざされるほど、
それはそれは寒い土地なため、
ここいらではまずは見られぬ“防寒具”に凝ったものが多いと聞く。

 「これはまだ薄手なものですから。」

年若い獣の毛皮を丁寧に鞣したもので、
革自体も毛並みもそりゃあやわらかなので、
羽織ってもさほどに重くはなく、
こちらのような、基本 暑い土地柄でも重宝しているとのこと。

 「そうか、シチさんの生国は、
  こうまで厳重なものを着込まねば、
  あっと言う間に凍えてしまうほど寒いのでしたね。」

広汎な地域への文化や風俗にも詳しいヘイハチ妃が、
そんな彼女でも滅多には見たことがないらしい、
なめらかな手触りのする一枚布状態の毛皮を愛でるように撫でたれば、

 「……?」

キュウゾウ妃もまた、少々恐る恐るという態にて白い手を伸ばしてくる。

 「ああ、そうですね。ヘイさんやキュウゾウ殿は…。」

丈夫だからということで、
ベルトや沓や武具などへ皮革製品を使わぬではないながら、
こうまでの毛並みのあるものは滅多に見まい。
何せ生活の場が温かいのだ、そこに住む生き物にも毛並みは要らぬ。
また、人の側にもそうまでしての暖を取る必要はないと来て、
この地では そうそう必要とはされぬ品。
いやいや これで磨くと仕上がりが違う…というよな、
玄人の職人さんが必要となさる現場以外では、
金満家の奢侈を示す飾り物としてくらいしか需要もなかろうよと。
こちら様もまた、うっかり失念しておりましたと、
自身の当たり前と彼女らの当たり前の各差に
あらためて気がついた翡翠の宮様。
生国のお空を思わせる、それは澄んだ青玻璃の双眸を柔らかくたわめ、
ほほと品よく微笑ってしまわれ。

 「………。///////」

寒くはないかといたわられた琥珀の宮様なぞ、
その嫋やかさへ うっとり見ほれてしまったほど。
まだまだ幼く、駆け引きも知らず、
見たものへ直情的に怒り狂っての復讐にと燃えていた、
そんなキュウゾウ妃だったのを。
おきゃんな姫よと、上手にあしらい、
他国へ嫁いでもせめて気丈であるようにとの、
実は優しい気遣いの下、
殺しても飽き足らないほどの仇敵であるかのような、
不貞々々しくも小憎らしい素振りをし続けた、
錯綜した性分をお持ちで、一筋縄ではいかない我らが御主様。
それでも…気がつけば、
同じ宮の中という傍らにおいででないと寂しいと、
こちらの紅蓮の姫に思わせるほど、
心から慕われる対象になってしまってもおり。

 “ほんに大タヌキ様であらせられる。”

自分がこちらへ嫁いだ折も、
そうそう、国同士の友好を取り結ぶ盟約には文句はないが、
それを堅牢なものとするための誓約、
直系の長子同士の婚約には、
当時から利発を通り越して利かん気なことで鳴らしておいでの、
氷の姫様ご自身の意向次第ぞと運ばれて。

 『ならば……。』

その麗しさや、気品たたえた風貌の端正さを、
それこそ遠くは極北の海を制覇する海賊らにまで
届かせるほどの美姫でありながら。
その勘気の強さから、
いいかげんな処遇や態度を見せた者への処断も凄まじく。
噂では自ら剣を振りかざし、
気に喰わなんだ者らの首をその手ではねまでしたとも言われておいで。
そうまで武々しき気性も持ち合わし、尚且つ、
優れた知恵者でもあった彼女から出された幾多の難題へ、
こちらも希代の知略家との名に恥じぬ、
様々な策を繰り出して受けて立った覇王だったとか。
そんな中には、知恵を使うものでなはくの、
腕自慢を披露あれとの代物も交ざっていて、

 「あ、それは聞いたことがありますよvv」

何しろ、そのまま後世へ語り継がれるだろう
伝説になりそうなほどの名勝負だったそうですしと。
ヘイハチがにっこり頬笑み、

 「???」

そんな勝負ごとがあった事実すら、
実は まだ聞いたことがなかったらしいキュウゾウが、
何だ何だと紅色の双眸を見張っての丸くしているのへと、
なんて愛らしいと思ってのこと、
くすすと苦笑をこぼしたシチロージ。
そんな些細な所作や表情でさえ、婉然と麗しい美人さんだ。
もっとずんと若くて才気煥発だった折ならば、
さぞや…この神々しき美貌も、それへと張りを与えし気丈さも、
一際 鋭角に尖っての目映くて、綺羅らかに弾けるほどだったに違いなく。
そんな姫様の側にしてみりゃ、
我こそはという求婚者も数多あったろうその中から、
国ごと引っ提げてのお目見えしたという順番だったろうカンベエを相手に、
一体どんな無理難題を…?と。
小首を傾げてというそれは無邪気な様子にて、
あねさま妃を見上げてくるものだから。

 「王族の嫡男では、
  せいぜい指揮を執ることのみ長けていての頭でっかち。
  知恵比べは難無くこなせても、
  実戦は不得手だろうと見越しておりましたので。」

それでなくとも
難敵として地元の猟師らからも幻扱いになっていたものを、
標的にと指名して、その毛皮を献上しておくれとねだって見せた。
無論、誰か人を立ててではなく、単独で雪山へ分け入ってとの条件づきで。
自身の腕で得て来ておくれとした獲物というのが、

 「北領の名うての猟師でも数十年に一度あるか無しか。
  それほどまでに邂逅は難しく、
  遠目にでも姿を見ることが出来れば瑞兆とまで言われていた、
  雪獅子の毛皮をな。」

 「そ…それって。」
 「〜〜〜〜。」

これまでどんな王侯でも彼らのお抱えの学者らでも、
難無く打ち負かして来たほどの、
こそりと自慢の艱難の数々だったのに。
どれもこれも苦もなく答えを示し、
手際や能力なしでは難しいこともこなしてしまう相手とあって、
今にして思えば、きっとこちらも意地になっていたのだろ。
婚姻というのも外交の手管。
絶対の切り札でもあり、王族のみに課せられる義務でもあって、
国を助けるためには我儘なぞ通してはならぬはず。
ただ、大したことのない殿方へ嫁すのは自身の矜持が許さぬとし、
その実、そんな相手へ愛するこの国ごと任せていいはずがなかろうと。
この時代にしては随分と僭越ながら、
巧妙にプライドを楯にしてのこと、選別・吟味していただけだったのに。
ずんと手厳しい篩(ふるい)にかけたら、
何としたこと、居残ったお人が現れたのが逆に意外で。
そして、そのお人の…精悍な双眸のたたえた光や、
尋深い威容に飲まれそうになるのが、
若さからのそれこそ狭量さが初めて滲み出てしまい、
それでこそ本来の年相応、小娘のように怖くなったのかも知れぬ。

 『極北の楯岩山に、幻の雪獅子が住むと聞いております。』

それを、出来るだけ傷をつけずに仕留め、
その麗しい毛皮をわたくしに下さいませと。
極寒の地ならではな、そして難題にも程があろう仕儀を告げたところ。
これでとうとう愛想を尽かすかと思いきや、

 「狩ってきてしまわれたんですよ、あの人ったら。」

 「おおおvv」×2

遠方への瞬殺が可能と、後の世に重宝がられる銃砲もまだない時代。
なので尚のこと、傷を少なく仕留めようと思えば、
罠や囲い込みではなくの一発必中、
口を狙ってその奥の喉笛をしめる格好で、剛の矢を射かけるしかなく。
太刀と弓矢と、防寒具にそれから
氷雪地帯ですべらぬよう、クギを打った沓に杖などといった、
重い装備の数々を身にまとい。
慣れぬ雪山へと分け入っての数日後、
あご髭や長々伸ばした蓬髪を半分ほど凍らせながらも、
出発した折とあんまり変わらぬ雄々しい元気さで、
豪胆にも頬笑みつつ戻って来た偉丈夫殿。
重たげな装備を詰めた革袋を足元へどさりと降ろし、

 『これで間違いはないか?』

いきなり生々しい骸を晒すのも何だと、
まずは王城つきの物品管理官へと披露したところ、
王の親御よりも年長な長老格の老師が、腰を抜かしそうになりながら、
本物に間違いないとの証しを宣言。
いくら何でも身分のある人、しかも遠国からの来訪者を、
地元の者でも音を上げる“楯岩山”へ放り出してなぞゆけませぬと。
寝食の補佐だけを任された従者らが言うには、

 『ワシらでも見守るしかないほどに切り立った崖の高みまで、
  そりゃあ精力的に踏破なされた殿下様でありますれば。』

雪の深さや底冷えのする寒さ、岩場という難所のみならず、
そのまま引きはがしたいらしいほど強く吹きつける風雪にも
雄々しき四肢にて断崖へ身をくい止めての、粘っておいでのそのうちに、

 『そんな酔狂な馬鹿を見物に来たとしか思えない』と

これはさすがに、カンベエ自身の言いようだったが。
強い風を受け、豊かなたてがみを薙ぎ伏せられつつも、
堅固な四肢を操ってのそれは軽快に、
危ない傾斜の岩場を駆け降りて来た、
どうやら肉食らしい獰猛そうな獣の鼻息に気がついて。
手を打たねばこちらが襲われるやも知れぬ、
だがだが、半端に外せば手負いになっての
ますます手ごわくなろう究極の事態。
剛の弓に矢をつがえ、ままよと放ったところ、
脅しの咆哮 轟かせかかってた顎(あぎと)の奥へ達したらしいと。

 「それもまた
  何かの巡り合わせのように言いなさったのですから、
  こちらとしては呆れるったら。」

慣れぬ舞台で大変な想いをしただろし、
命の危険に晒されたのも間違いないというに。
そんなのちいとも負担じゃなないと言いたいか、
いやいや、そんな酷いことまで言い立てた姫君が、
その我儘を悔いぬよう。
それほどまで、国を大事と思う裏返しなの、
判っておいでなればこそ、
そうまで素っ頓狂にも冗談めかして下さったのだなと、
今なら重々理解も出来て。
だからこそ、とんだお人だったことよと
くすすと笑い飛ばせるシチロージ妃であるらしく。


 「……そっか。
  北領はただでさえ厳しい環境だから、
  毛皮の主も肉食がほとんどなんだ。」

 「……。(おおお)」

孤高であればあれほどに、
鋭い牙や爪を持つ存在しか生き残れぬ厳しい土地柄。
それを軽々と狩ってしまわれたとは、

 「俺もそういうの扱いなのかなとか
  思ってないでしょうね、キュウゾウ殿。」

 「…っ☆」

あやや、いやいや
そんなことは…と大慌てでかぶりを振った、
一番年若な妃だったのへ。
遠く氷の国から嫁いで来た妃様、
まるで春の女神様のよに、
そりゃあ嫋やかに微笑ってしまわれたそうでございます。





     〜Fine〜  13.02.20.


  *おかしい。
   カンベエ様の勇姿を今度こそ書きたかったはずなのに、
   気がついたらどこのギリシャ神話ですかというお話になってましたね。
   知恵比べをした末に、賢姫を娶ると言えば、
   荒川静香さんのスケーティングで有名になった
   オペラの『トゥーランドット』みたいですが。
   それにつけても砂漠の話とは思えぬ壁紙ですいません。(笑)


  *確かに肌触りもよくて温かで、何と言ってもゴージャスなので、
   セレブリティの方々から、高価なものほど好まれるのはしょうがない。
   とはいえ、
   嗜好品としての豪奢な毛皮は、わたしもどうかと思うのですよ。
   例えば、都会の高級なホテルの広間へ招かれたというお出掛けへ
   しかも高級な車で乗りつけなさるのに。
   何でまた、極寒の地で要りようなほどの
   豊かな毛並みをまとう必要があるのかなぁと。

   ただね?
   大地の果てまで凍りついてるような極寒の地にあっては、
   そこで生態をなす存在の着ている物ですから、
   理にもかなっての暖かい素材として、
   狩りの対象になるのもしょうがないと思いますし。
   食べるものを栽培出来ない土地ならば、
   それを財源として食料を得るために狩るのもまた
   仕方がないんだろうなと思うワケで。

   毛皮を着るのはやめようという運動が
   時々思い出したように取り沙汰されてますけれど、
   そういう人らは じゃあ肉は食べないのかなぁとか、
   食べない魚を
   “キャッチ・アンド・リリース”なんてって釣るのは
   何か傲慢で罪深いように、
   毛皮も、肉も消費してこそ狩っていいとか言いたいのかなぁとか。
   日本人やノルウェーの人たちは、
   鯨を 骨やヒゲやもちろんの肉まで余さず使ってんだのに、
   明かり用の油脂しか取らずに大量に捕鯨した国の人から
   今更 誹謗されるのはちょっとねぇとか。(あ、これは関係ないか。)
   何ででしょうか、
   ついつい中二病みたいなことを内心で反駁しちゃっております。


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